STC ニュースレターVol.1 「ライオンと五十嵐製紙のSDGs」

SDGs(持続可能な開発目標)が、2015年9月の国連サミットで採択された。これは、貧困や飢餓、教育、働きがい、気候変動など世界が抱える多くの課題を2030年までに解決することを目的に、先進国と発展途上国が一体となって達成するために掲げた目標だ。日本も例外ではなく、さまざまな企業がSDGsの達成を目的とした活動を行っている。

本レポートでは、日本でサステナブルな取り組みを行っている企業を紹介する。第1回は、ヘルスケア業界大手のライオンと、老舗和紙工房の五十嵐製紙の取り組みをまとめた。

 

ライオン 環境問題の解決を目指して

ライオン株式会社は、ハブラシやハミガキ、ハンドソープなどの製造販売を行うヘルスケア業界を代表する日本企業のひとつだ。1891年東京都神田柳原河岸に石鹸やマッチの原料取次の小林富次郎商店として創業し、今年で130周年を迎える。従業員数は、グループ全体で7,452人。ハミガキの『クリニカ』、ハンドソープの『キレイキレイ』、洗剤等の商品を製造、販売している。

業績をみると、同グループの2020年12月期(2020年1月1日~2020年12月31日)の売上高は、前年比2.3%増の3,553億5,200万、営業利益は47.7%増の440億7,400万だった。

それでは、同グループのサステナビリティやSDGs達成に向けての取り組みを見ていく。

 

SDGs達成に向けてのサステナビリティ重要課題

2018年には、経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」の実現や、SDGsへの貢献に向け、2030年時点の社会像からバックキャストして、2020年までに取り組むべき「サステナビリティ重要課題」を特定した。ライオンのサステナビリティ重要課題とは、広く、事業や地球環境、社会のサステナビリティを考慮して「人と地球の健やかな未来」の実現に資する課題であり、バリューチェーン全体およびステークホルダーを網羅的に勘案し、リスクと機会両面でとらえているものである。その後、2020年には、2030年を見据えたライオングループとしての「サステナビリティ重要課題」と目標を設定した。

また、サステナブル経営の仕組みとして、社長を含む業務執行役員全員と関連部門で構成する「サステナビリティ推進会議」を設置している。会議で決定した内容は、必要に応じて執行役員会・取締役会に付議され、各業務執行部門の事業活動に反映されている。

 

 

https://www.lion.co.jp/ja/csr/management/materiality/

同グループは、重要課題の中でも特に 「サステナブルな地球環境への取り組み推進」、「健康な生活習慣づくり」を「最重要課題」と位置づけて取り組んでいる。

 

サステナビリティ重要課題(1)「サステナブルな地球環境への取り組み推進」

「サステナブルな地球環境への取り組み推進」については、地球規模で広がる環境問題に対して、パリ協定やSDGsなどの世界目標の達成に事業を通じて貢献していくべく、2019年に長期環境目標「LION Eco Challenge 2050」を策定している。

 

 

次に、「サステナブルな地球環境への取り組み推進」で実際に取り組んでいる活動を紹介する。

製品の3R(Reduce:使用量削減、Reuse:再利用、Recycle:再資源化)とRenewable(再生可能な)を積極的に推進。

「Reduce」の取り組みとしては、容器・包装材料を削減するために、洗濯用洗剤、柔軟剤、台所用洗剤などを濃縮化し、容器のコンパクト化を推進している。容器構造の工夫などとあわせて容器、包装材料の使用量削減に努めている。

「Reuse」は、つめかえ用の製品を増やしている。つめかえることで本体容器は繰り返し使うことができる。つめかえ用製品は、本体容器よりも重量も軽く、使用後の容量も小さくなるため、家庭から出るゴミの削減にも貢献している。

「Recycle」では、洗濯用洗剤や台所用洗剤の本体容器にリサイクルPETを使用。

【『トップ スーパNANOX』のボトル部は100%リサイクルPET 】

また、使用済みつめかえパック(フィルム容器)においては、資源循環型社会の実現を目指し、花王㈱と共同で、企業の枠を超えてリサイクルに取り組んでいる。

「Renewable」では、粉末洗濯用洗剤等の容器・包装材料に、古紙パルプ(新聞紙などの古紙から取り出した紙の原料)を使用したり、一部商品には植物を原材料の一部とするバイオマスプラスチックを活用、環境負荷の低減に努める。

 

ハブラシ・リサイクルプログラム

同社は、2015年から使用済みハブラシを回収してリサイクルする取り組みを、テラサイクルジャパン合同会社と共同で、多くの自治体や学校などとともに推進している。

本プログラムは、個人・学校・団体などの単位で事前に参加登録すれば、誰でも参加可能だ。回収場所ごとに回収ボックス等を設置し、使用済みハブラシを集める。その後、集めた使用済みハブラシを指定運送業者が集荷する。回収された使用済みハブラシは、植木鉢などの製品に生まれ変わらせる。

参加者には、集めた重量に応じてポイントが付与され、そのポイント数に応じて、使用済みハブラシをリサイクルして作られたプラスチック製品(植木鉢など)との交換や教育支援・地域支援などの寄付に換えることができる。

2021年1月末現在で、全国760拠点・約78万本の使用済みハブラシの回収実績があり、今後も本プログラムは継続していく予定だ。

 

自然との共生

同社は、「洗うこと」を通じて、常に水と深い関わりのなかで事業を展開してきたことから、水や自然環境に配慮する活動にも力を入れている。

工場においては製造工程の設備洗浄や加熱・冷却設備等に多くの水を使用していることから、同社工場のなかで最も水の使用量が多い千葉工場で、2016年から「排水リサイクルシステム」を導入した。これにより製造工程で発生する排水を放流せずに、リサイクルできるようになった。また、排水処理設備も導入し、生活排水や浄化処理設備の排水を、今まで以上に浄化することが可能となり、海の富栄養化の原因である窒素をさらに取り除くことができるようになった。

そのほか、水源となる森の保全と環境意識醸成を目的として、「ライオン山梨の森」にて従業員がボランティアや研修として森林整備活動を実施。またそれ以外にも、地域の生物多様性を積極的に守る、あるいは再生・復元する活動も重要な活動として考え、全事業所で生物多様性保全活動を実施している。

 

持続可能な原材料調達に向けて

同社は「持続可能な原材料調達方針」を設定し、主要な原材料であるパーム油誘導体や紙、パルプにおいて持続可能な調達の取り組みを進めている。

パーム油については、「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」に2006年から参画しており、RSPO認証油の誘導体の調達・使用を進めている。

 

サステナビリティ重要課題(2)「健康な生活習慣づくり」

ライオンは、創業以来、人々の健康な毎日を目指して、商品・サービスの提供とともに、生活者への普及啓発活動や情報提供を推進し、「健康な生活習慣づくり」を提案、日本のみならずアジアおいて、健康、快適、清潔・衛生分野を通じてサステナブルな社会の発展および地球環境に貢献する活動に取り組んでいる。

新たな重点活動として「健康格差」という社会課題への取り組み「インクルーシブ・オーラルケア」を推進していく。生活環境、身体、経済、情報等の状況により生じたオーラルケア機会の格差を解消し、誰ひとり残さず、すべての人にオーラルケアの機会を提供することで、人が本来持っている“健やかに生きる力”をオーラルケアから引き出し、育むことを目指す活動である。

現在、2つの活動が発表されている。

1つは子どもたちの自立支援として、「子ども食堂」などの場を使い、さまざまなオーラルヘルスケアに関わるプログラムを通じた体験の提供を行う活動である。この活動は、認定NPO法人フローレンス、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえと協定を結び、子どもを支える仕組みを構築し、長期的な活動としての展開が予定されている。

もう1つの取り組みは、ハミガキの香料に採用されているインド産の和種ハッカというミントをすべて、厳しい審査を通った認証ミントに切り替えるというものだ。※SAI Platform(Sustainable Agriculture Initiative Platform)認証ミント

持続可能な労働条件や生産条件などが整えられた認証農家は、現状は不足しており、認証を受けたミントを調達・継続購入することで、インドにおけるサステナブルなミント生産の仕組みの実現を支援する。

 

同社はこれまでも、オーラルヘルスケア普及活動の一環として、財団法人 ライオン歯科衛生研究所を1964年に設立。「予防歯科」の研究や、産学連携で行う共同研究、口腔内検査システムの設計、オーラルヘルスケア学講座(弘前大学)の開設などを行ってきた。また、正しい歯みがきの仕方を学ぶことを目的とした「全国小学生歯みがき大会」を毎年開催している。

【過去の全国小学生歯みがき大会の様子】

 

オーラルヘルスケアとは別に、「正しい手洗い」を習慣化する普及活動も行っている。幼稚園や保育園、小学校等で、子どもたちに手洗いの大切さを教えている。また、災害時の清潔健康ケアについての冊子「災害時の清潔・健康ケアハンドブック」、「災害時のための清潔&健康ケアBOOK」を作ったり、飲食店やホテル、食品工場などの従業員に向けて、手洗いのタイミングや手洗い設備の管理ポイント、その他プロが知っておくべき衛生管理情報などを提供したりしている。

 

五十嵐製紙 廃棄された果物や野菜から作る「Food Paper」

1919年に創業した株式会社五十嵐製紙は、福井県越前市にある越前和紙の老舗工房だ。従業員は11人。襖や壁紙を中心に、大判紙から小物まで幅広い和紙を制作している。五十嵐康三社長の妻で伝統工芸士の美佐子氏が作る手漉き大判創作和紙(装作和紙)は、近年評価が高まっており、数々の施設や店舗などで採用されている。また、ガラスとのコラボレーション「和紙ガラス」や、「和紙あかり(照明)」などの作品も積極的に制作している。

同社のサステナブルな取り組みに「Food Paper」がある。「Food Paper」は、廃棄された野菜や果物から作る紙文具ブランドだ。

こうした取り組みの背景には、和紙の原料不足がある。和紙の原料である楮 (こうぞ) や、みつまた、雁皮 (がんぴ)などの植物の収穫量が現在激減しており、このままでは原材料を賄うのが難しいという現状があった。

そんななか、五十嵐家の次男である優翔 (ゆうと) くんが小学4年生から5年間行っていた「紙漉き実験」という自由研究をヒントにして作られたのが、「Food Paper」だ。その自由研究のなかでは、バナナの皮やピーナッツの皮、枝豆など食べ物からできた紙の実験結果がまとめられており、そうした成果を母である社長の娘の伝統工芸士匡美(まさみ)氏が引き継ぎ、福井にあるデザイン事務所の合同会社ツギと共同で事業化した。

「Food Paper」は、廃棄される野菜や果物をヘタなどの不要な部分を取り除き、ほぼ丸ごと原料で使用しているため、フードロス削減につながる。作り方は、手漉き和紙と同様のプロセスで作れ、機械抄きにも対応しているので量産することも可能だ。

原料食材には、たまねぎ・茶・ごぼう・ぶどう・にんじん・キャベツ・ねぎ・みかんなど多様な野菜・果物を使用。

商品ラインナップは、全て野菜と果物からできており、B5ノート、メッセージカード、サコッシュ、小物入れ、ストッカーなどがある。どれも、人工染料では再現できない天然由来の素朴な色合いが特徴だ。