アウトサイダーとしての生き方-W.ブルッゲマン『預言者の想像力』

読んだ本の備忘録として書いている本シリーズ。今日も最近読んだ神学に関する本をご紹介したいと思います。

 

著者であるW.ブルッゲマンは、北米を代表する旧約聖書学者です。彼は本書において、「我々の生きる世界は既成概念に支配されているが、既成概念への批判が現代を生きる人々の責務であり、既成概念を突き破るときに必要不可欠となるのが想像力である。」と説いています。

 

1.本書の要約

本書において繰り返される語に、「帝国」や「王族意識」といったものがありますが、これはこの世界の政治権力によって弱いものを虐げたり、搾取したりする仕組みのことを指しています。また「帝国」や「王族意識」は「既成概念」という語にも換言されうる言葉だと考えられます。

一方で現代を生きる人々の職務についての著者の提言は、既成概念への批判と新しい概念の提示であります。

旧約聖書における大きなテーマの一つは、「帝国」および「王族意識」といった古い歴史や自己防衛を関心事とする王制へのラディカルな批判であった、と著者は説きます。

支配的意識はラディカルに批判され、その共同体は解体されるべきである…と著者はつづけたうえで、私たちは将来を喜ぶためには現在の秩序を悲しんで、打破しなければならないと語るのです。

悲しみは喜びへの唯一の扉であり、また喜びに至る唯一の道である、それこそが私たちに必要な「想像力」なのだと本書は閉じられています。

 

2.本書についての全体的な評価

ところで最近私の近くには、「結婚や出産や繁栄といった一見『祝福』と呼ばれる事柄は、それを手にしていない人にとっては呪い以外の何物でもない。」と言っていた人がいました。なるほどな、と思います。「祝福」の反対語は「呪い」、持てる者と持たざる者がはっきりと分かれるのが、私たちの生きる世界のような気がします。

本書の長所は、多くの人々にとって祝福と捉えがちな目に見えた華やかな出来事をも、問題意識とする重要性を説いたことであります。つまり、一見「祝福」と捉えられる社会の結婚や出産や繁栄が、虐げられている人たちにとっては必ずしも喜ぶべきものではないことや、それらが既成概念の産物であって嘆きの基となっている可能性があることを示唆する点が評価に値します。

 

本書は一貫して、脇に追いやられたアウトサイダーにスポットライトを当てます。すなわち、「分派の雰囲気を持った人々」が、もっとも現代を生きる人々としてふさわしいのだと語ります。

私たちは、異なる意見、異なる解釈、異なる見解を持つ人たちを排除することで自らを守ってきた歴史があります。しかし、本書は人間とは本来ラディカルな責務を担う者であると述べています。現実に存在する意見、解釈、見解、あるいは人格を否定することで成立する自己や学問など本来あるべきではありません。そのことを本書は深く人々に覚えさせる効果をもっています。