STCニュースレターVol.2「キユーピーのSDGs」

SDGs(持続可能な開発目標)が、2015年9月の国連サミットで採択された。これは、貧困や飢餓、教育、働きがい、気候変動など世界が抱える多くの課題を2030年までに解決することを目的に、先進国と発展途上国が一体となって達成するために掲げた目標だ。日本も例外ではなく、さまざまな企業がSDGsの達成を目的とした活動を行っている。

 

本レポートでは、日本でサステナブルな取り組みを行っている企業を紹介する。第2回は、食品業界大手のキユーピー、の取り組みをまとめた。

 

キユーピー 健康寿命延伸、食品ロスの削減も

キユーピー株式会社は、マヨネーズソースを中心に、ドレッシングやパスタソースなどの製造・販売を行う食品業界を代表する日本企業の一つ。創業は1919年で、前身の食品工業株式会社が東京都中野区でソース類、缶詰などの製造を始めたのが始まりだ。その後、1925年に日本で初めてマヨネーズの製造・販売を行った。従業員は、グループ全体で1万6003人。販売商品は「キユーピーマヨネーズ」、「キユーピードレッシング」など。

業績をみると、同グループの2020年11月期(2019年12月1日~2020年11月30日)の売上高は、前年同月比2.7%減の5311億300万で、営業利益は、11.7%減の283億300万だった。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、外食需要が低迷し、業務用商品の販売数量が減少したことで、売り上げ、営業利益ともに減収した。

それでは、同グループのサステナビリティやSDGs達成に向けての取り組みを見ていく。

 

重点課題は、「食と健康への貢献」、「資源の有効活用・循環」、「気候変動への対応」の3つ

 同グループは、SDGsを参考にしながら、バリューチェーンにおけるリスクと機会の分析により、事業を通じて社会課題を以下のように抽出した。

「持続可能な調達、サプライチェーンの支援」、「ダイバーシティの推進」、「子どもの心と体の健康支援」、「健康寿命延伸への貢献」、「贈収賄の防止」、「人権への配慮」、「水利用の効率向上」、「エネルギー効率の改善」、「資源の有効活用」、「プラスチック排出削減」、「気候変動への対応、CO排出削減」、「廃棄物削減」、「生物多様性の保全」だ。

さらに、これらの社会課題ごとに、ステークホルダーからの期待の大きさとグループが与える社会への影響の大きさを評価することで、グループが最優先で取り組むべき「サステナビリティに向けての重点課題」を特定した。「食と健康への貢献」、「資源の有効活用・循環」、「気候変動への対応」の3つだ。

 

「食と健康への貢献」

 まず、「食と健康への貢献」は、テーマが2つある。

1つは、「健康寿命延伸への貢献」だ。2021年度、2024年度、2030年度いずれも、「1人ひとりが1日当たり350gの野菜摂取の達成」と、「たんぱく質の摂取に貢献するために卵の消費量アップの推進」の2つの目標を掲げている。

具体的には、平均寿命と健康寿命の間のギャップを埋めることを目指す。日本は、女性の平均寿命が87.14歳、男性が80.98歳と長寿国のイメージがある一方、自立して生活できる年齢を示す健康寿命をみてみると、女性が74.79歳、男性が72.14歳と約10年のギャップがある(内閣府「平成30年版高齢社会白書」)。そこで、同グループは、サラダと卵でバランスの良い食生活をサポートすることで、人々の健康続伸を促すことはもちろん、医療費の抑制にも貢献したい考えだ。

具体的には、運動を想定して効果的にたんぱく質を摂取できるレシピの情報提供や、「食」をテーマにした講演会などを開催している。また、社内認定制度「たまごスター」を2019年度よりスタート。この制度は、三ツ星タマリエ検定取得(日本卵業協会)に加え、卵の知識を正しく伝えるための勉強会に参加することで認定される。今後も、社内外問わず、卵の魅力を伝える認知啓発活動を担っていく予定だ。

また、まめ活®も行っている。「豆」は栄養バランスがよい食材だが、食べなれていない子どもも多く、食感が苦手などを理由に学校給食で食べ残しが多い食材だ。そこで、同社は子どもたちに「豆」のよさを伝え親しんでもらいたいと考え、2016年から小学校で「豆」に関する紙芝居やワークシートなどの食育授業の教材を提供。豆を取り入れた学校給食の献立提案も行っている。

ほかに、健康に配慮した商品の研究・開発、卵アレルギー研究、また、同グループのファインケミカル事業では、食酢の研究から生まれた酢酸菌酵素など、さまざまな素材を食品・化粧品・医薬品などの分野へ提供する活動も行っている。

 

子どもの心と体の健康支援

「食と健康への貢献」のもう一つのテーマが「子どもの心と体の健康支援」だ。目標は抽象的だが、「私たちの活動で創る子どもの笑顔の数」を、2021年度に20万人以上、2024年度に40万人以上、2030年度に100万人以上にするとしている。

子供のうちに健全な食生活を確立することで、生涯にわたる健康の基礎を築くことができるとの考えを基に、食育活動やフードバンクの支援を行う。

例えば、食育活動では、工場見学、マヨネーズの秘密や野菜を食べる大切さを教える出前授業「マヨネーズ教室」、小学生とその父親を対象とした料理教室「家族でわくわくクッキング」などを全国で実施している。「マヨネーズ教室」は2002年から全国で行っており、2019年には参加児童数が10万人を超えた。

また、「公益財団法人 キユーピーみらいたまご財団」を2017年に設立。食育活動や子どもの貧困対策などに取り組む団体への寄付を中心とした助成活動を行っている。2020年現在で、186団体を助成した。

「資源の有効活用・循環」

 次に、「資源の有効活用・循環」を紹介する。これは「野菜未利用」、「プラスチック排出削減と再利用」、「食品ロスの削減(商品廃棄物削減)」の3つのテーマからなる。

「野菜未利用」については、未利用部の有効活用度を、2021年度に30%以上、2024年度に50%以上、2030年度に90%以上に上げることを目標に掲げる。

具体的な取り組みとして、キャベツ・レタスを再資源化している。同社とJA全農が合弁で設立したカット野菜工場の株式会社グリーンメッセージでは、2017年度にこれまで事業規模では難しいとされたキャベツ・レタスの葉物野菜の飼料化に成功しており、全国の酪農家で有効活用されている。東京農工大学とキユーピーの共同研究では、この飼料を与えた乳牛は乳量が増加することも報告されている。ほかにも、肥料化して契約農家へ提供するなど、今後も、野菜の未利用部をより有効に活用する方法を探求していく。

 

「プラスチック排出削減と再利用」に関しては、2000年に、主力商品であるマヨネーズ容器を軽量化し、その後、ドレッシング容器を軽量化した。また、2020年2月には、スティックタイプドレッシングの外装の一部(15%)に、再生プラを採用。今後も「商品の容器包装」、「工場で使用するプラスチックのさらなる削減」、「分別しやすい商品設計」、「再生プラやバイオマスプラスチックの積極的導入」、「循環経済の実現をめざし、回収・再生に積極参加」などの取り組みを推進する予定だ。

「食品ロスの削減(商品廃棄物削減)」では、商品廃棄量削減率(2015年度比)を2021年度で25%以上、2024年度で35%以上、2030年度で50%以上を目標に掲げる。

具体的な取り組みとして、「卵の100%有効活用」を進めている。同グループでは、マヨネーズ以外にもさまざまなタマゴ加工品を生産しており、日本で生産される卵の約10%(1年間で約25万トン)を使用している。「キユーピー マヨネーズ」には、卵黄を使用し、卵白はかまぼこなどの水産練り製品、ケーキなどの製菓の食品原料として使用。

また、年間約2万8千トン(2019年度実績)発生する卵殻は、廃棄すると環境に負荷がかかる。そのため、同グループでは、1956年から卵殻を天日で干し、土壌改良材(肥料)として農家へ販売することで、卵殻を100%有効活用している。ほかにも卵殻はカルシウム強化食品の添加物などにも使用。卵殻膜は、化粧品などへの高度利用に取り組んでおり、原料である卵に関しては廃棄する部分をゼロにする方針だ。

 

「気候変動への対応」

 「気候変動への対応」では、「CO排出量の削減」を取り組むべきテーマに据える。そのなかで、CO排出量削減率(2013年度比)を2021年度で7.5%以上、2024年度で20%以上、2030年度で35%以上削減を目標に掲げる。

具体的な取り組みとしては、グループ全体で製造工程における効率改善、省エネ設備の導入などの展開に加えて、太陽光発電設備の新設による再生可能エネルギーの活用を進めている。

また、物流では長距離トラック輸送から鉄道・船舶輸送へのモーダルシフト、異業種メーカーとの共同輸送を積極的に推進。オフィスではエネルギー使用の最適化に取り組んでおり、例えば、グループの本社が集まる仙川キユーポートではAIの活用により、空調機器の年間エネルギー使用量を約15%まで削減することに成功した。

サプライチェーン全体でのCO排出量も算定しており、今後、その削減も推進していく。